IIBA日本支部 BAインタビューシリーズ Vol.2

IBA日本支部 BAインタビューシリーズ Vol.2
-BAとしてのキャリアとその使命-
 
インタビューイー:株式会社ブロズプラス 加藤CEO
インタビュアー :IIBA日本支部理事 永谷、藤重
日  時    :2022/12/9 14:00~16:00
場  所    :アスカプランニング 上野オフィス
 
- 本日はお忙しいところお時間をいただきありがとうございます。またインタビューの要請を快くお受けいただきありがとうございました。IIBA日本支部では支部活動について会員の皆様にご理解を深めていただくことを目的として、ビジネスアナリストの活動の実際を様々なBA実践者にお伺いし、公開していく活動を始めました。加藤様は長年、外資系企業でBAとして活躍されてきたと伺っています。どのようなお仕事をされて来たのか大変興味があります。今日はざっくばらんなお話を伺えればと思いますのでよろしくお願いいたします。
 
  はい、こちらこそよろしくお願いいたします。
 
- まずは加藤様のご経歴を教えていただけますでしょうか。
 
 もともと英語が専攻でニュージーランドに語学留学しました。帰国した1995年にWindows95とインターネットの登場し、データベースというかデータに興味を持ち、Microsoft Accessを独学で勉強しました。
 
- 英語からITに関心が変わったということでしょうか?
 
 いえ、そうではなく英語を活かした仕事をしようと考えたのですが、英語が話せるだけでは強みにならないと考え、ITの知識それもデータハンドリングつまりDWHの知識との二本立てでキャリア形成を考えました。今で言う二刀流ですね。
 
- なるほど、英語+αのαにITを選んだと言うことですね。その後それをどう活用
されましたか?
 
 バイリンガルSEとして、派遣会社を経由して多くのプロジェクトに参画、その後ウォルトディズニージャパンでBAとして働き、韓国に留学しました。帰国してセキュリティソフトウェアメーカーのマカフィー、医療機器メーカーの日本法人である日本メドトロニック株式会社と合計で20年以上CRMやマーケティング関連のデータ周りのビジネスアナリシスとして国内外の方々と協業しました。
 2022年1月に会社を設立し独立しました。今はこれまでの経験を活かして、デジタルマーケティングやCRM、BIなどのITシステム導入時のBAの実践と研修サービスをお客様に提供しています。
 
- BAとして働き始めた時、BAというものやBA実行の手法についてご存知でしたか?
 
 いえ、まったく知りませんでした。ディズニーで初めてBAというポジションを知ったのですが、派遣で日本の要件定義を海外のチームで開発してもらう部分を担当していたため同じような仕事かなというだけで、BAという名前すら知りませんでした。
 
- とするとどのようにBAの手法を学ばれたのでしょうか?
 
 外資系ということもあり、海外の本社や支社にいるBAとやり取りが頻繁に発生します。リージョンに必要な機能をグローバルなシステムに反映する必要がある場合や、他の地域の要望で追加した機能がどのように国内のシステムに影響するかなど、ビジネスとシステムの関係を調べて、調整する過程でBAの考え方や方法論、作成するドキュメントを学んで、自分なりの手法を確立してきました。
 
- 凄いですね。経験を通してBAを実践されていたということですね。BABOK®やIIBA®のことはご存知でしたか?
 
 いえ知りませんでした。独立にあたってBAの団体があることを知り、問合せして会員になりました。BABOKを読んだ時に今まで使っていた用語は正式には○○というのか…と初めて知りました。
 
- 外資系企業の中でBAがどのように作業するのかお聞きしたいのですが、まずは体制について、BAの専門部署がありましたか?
 
 勤務していたどの会社でもBAはIT部門の中に配置されていました。BAはそれぞれ担当業務分野を持っていて、ERPやロジスティクス、セールス&マーケティングというように担当業務を持って作業を行っていました。
 
- そうすると様々な分野にまたがるようなシステム開発や、機能修正・追加の場合はBA間での調整となるわけですね。
 
 はい。会社によっては事業部門に個別にBAがいる場合もあります。大規模なシステムでは横断的な検討が必要なため、各専門分野のBAと協業やステークホルダーと調整をしていました。
 
- 作業開始のトリガーはだれが引くのですか?
 
 8割がビジネス部門からの要求になります。後の2割はIT部門から新しい技術や、アプリケーションなどの提案となります。
 
- ビジネス部門からの要望が来て動き出すのですね。
 
 いえ、要望が来てからでは遅いと思います。ビジネス部門とは定期的な会議を開くため、行っているビジネスの内容はもちろんのこと、ビジネス部門が抱える現時点での問題や、課題、将来のあるべき姿について把握しています。
 それら課題をプロジェクトで解決するのか、既存システムの拡張や改修をするのがいいのか、BAとして準備や提案を行います。
 
- それは素晴らしい、いつもビジネス部門の人たちとコミュニケーションを図っているということが必要だということですね。
 
 そうです。これが社内にBAが必要な一番の理由だと思います。プロジェクトだけにとどまらず、常日頃からコミュニケーションを取り、人間関係を構築でき、既に社内
 事は把握しているので直ぐに動けるという点が強みですね。
 
- 実際にBA活動を進めるにあたって気を付けていたことはありますか?
 
 一つは、必ずしもITによる解決策を提示するわけではないと言うことです。BAはビジネス要求からシステム要件への落とし込みを行う訳ですが、プロセスを変更することで解決できるビジネス要求もありますから。どの場合どうするのがベストのかをビジネス部門と相談、決定します。
 もう一つは、PMとの相性が重要だと言うことです。BAはプロジェクトとコラボレーションして目的達成しますが、プロジェクトのマネジメントにはかかわりません。それは役割が違うし異なるスキルが要求されるからです。ですが、BAが提示するビジネス要求に対して、PMが異を唱える場合があります。このような場合、コラボレーションに影響がでるため、ステークホルダーエンゲージメントの獲得に腐心することになります。
つまり、結局は人間力で関係改善を図るしかありません。大事なのは「ロール&レス
ポンスビリティ」で役割を明確にしておくことです。外資系企業の場合ジョブ
ディスクリプションが明確なのでそれに忠実であると言うことですね。日本企業の場
合これが難しいため、大きな障害になっているかもしれません。
 
- 実施したBA活動の評価はどのように行われたのでしょうか?またプロジェクトが当初予定の成果を出せなかったときはどうされましたか?
 
 プロジェクトがどうだったのかはPMの責任範囲になりますが、BAは要件に対して結果がステークホルダーにとって、ビジネスにとってどうだったのかで評価されます。直接、間接的に評価内容を聞いたり、次のプロジェクトでアサインされるか否かでも評価されているかどうかわかりますね。
 基本的に大きな失敗は経験せずにすみましたが、プロジェクトの成果が期待通りではなかったということはありました。そのようなときには、創り出した成果の中に将来的な価値、潜在的な価値を見出し、それを強調することで決して無駄な投資をしたわけではないことを責任者に納得いただけるようにし、次の行動に繋がるようにしました。つまり期待通りの結果でなかった=失敗という事ではないという事ですね。
 これも最終的にはステークホルダーとの日ごろの信頼関係があってのことだと思います。
 
- ありがとうございます。評価作業では随分ご苦労されたことが伺えます。他に大変だった思われるエピソードはありますか?
 
 事業部門のステークホルダーの皆さんはお忙しく、いざプロジェクトが始まってもそのための時間確保が難しいという状況があります。事前にできる限りの準備をして極力時間をいただかない工夫、桂子さんの頼みならやるしかないでしょという日頃からの人間関係や信頼関係。そういうものはプロジェクトが始まってから慌ててやってもできるものではないですよね。ステークホルダーの課題や悩みを常日頃インプットしておくことで、BA活動のスタート時点で状況の把握と整理は終わっているという状況を作る必要があります。
 また、プロジェクトメンバーがプロジェクト慣れしているかしていないでも要件定義の明確化に時間がかかるケースもありました。ここはBAの要件引き出しのテクニックや経験値が大きく影響すると感じました。
 
- 逆にやりがいを感じたエピソードはありますか?
 
 比較的新しいテクノロジーを要するシステム構築でビジネスに対して充分な効果を上げ、経営目標の達成に貢献できたときです。多くのステークホルダーから評価の御言葉を頂きました。
 またBAの仕事の本質は、如何にいろいろな立場の人と円滑にコミュニケーションを図り、共通の目標に向かって進んで行けるかだと思います。その点、相手に共感し敵対することなく解決すべき問題によりそうという、女性が多く持つ特性を生かせることはよかったと感じています。
 
- なるほど。欧米ではBAの7割が女性だというのも納得できます。残念ながら日本の企業ではBAの認知度がそれほど進んでいない状況ですが、これを改善するため何が必要だとお考えになりますか?
 
 まず経営者がBAの必要性を認識することだと思います。BAは企業活動において必ず必要な組織の能力(ケイパビリティ)です。ということはBAという名称ではないかもしれませんが、企業の中で誰かがBAの仕事をしているということになります。しかしそれが、誰かの個人的な経験と能力で行われていることが、投資やビジネス機会の獲得に対して大きな損失になっているということです。BAの方法論が企業の中で定義され、体系化されることでビジネスに大きく寄与することに気付いて欲しいですね。
 
- 今後IIBA日本支部に期待することはありますか?
 
 今、企業の中にBAを育成することを目標に研修サポートのサービスを展開しています。私は外資系勤務だったため、BAポジションが既にありキャリアパスも明確でした。日系企業などもまだまだBAが認知されていないと思いますし、先ほどもお話したとおりBAの認知や育成をすることで女性活躍支援になると考えています。この活動をIIBA日本支部としてサポートいただければとてもありがたいと考えています。是非よろしくお願いいたします。
 
- わかりました。女性の活躍の場としてのBAという位置づけ、BAサロン等の活動を通じてさらに強化していこうと考えます。
 本日はお忙しいところ、お時間をいただきありがとうございました。これからもBAの普及に向けてご協力いただければ幸いに存じます。