BAインタビュー

IIBA日本支部 BAインタビューシリーズ Vol.1

-超上流工程への挑戦-

 

インタビューイー:SOMPOシステムズ株式会社 藤井執行役員

インタビュアー :IIBA日本支部理事 清水、藤重

日  時    :2022/12/1 15:00~16:00

場  所    :オンライン(Zoom)

 

- 本日はお忙しいところお時間をいただきありがとうございます。またインタビューの要請を快くお受けいただきありがとうございました。IIBA日本支部では支部活動について会員の皆様にご理解を深めていただくことを目的として、ビジネスアナリストの活動の実際を様々なBA実践者にお伺いし、公開していく活動を始めました。その第一弾として、本日藤井様にご登場いただきました。できるだけありのままのご体験とBAに対する思いなどをお聞かせいただければと思います。なにとぞよろしくお願いいたします。

 

  はい、こちらこそよろしくお願いいたします。

 

- 御社はSOMPOグループの一員として、グループ会社のシステム開発案件に取り組まれていると思いますが、現在ビジネスアナリシス(BA)の実行に取り組まれているとうかがっています。そのきっかけは何だったのでしょうか?

 

 これには2つの側面があります。一つは会社のビジネスの環境の変化です。2010年の合併やホールディング会社の設立と損保事業で相次いだ合併によるグループの拡大などにより、様々なビジネス変革が必要となりました。また、「保険屋ではない」を目指すという方針により、新しいビジネスの創出がSOMPOグループに求められるようになり、数多くの大規模IT構築プロジェクトが立ち上がりました。

 

- なるほど。プロジェクトの現場はかなり混乱したのではないでしょうか?

 

 そうです。プロジェクトは完了したものの、必ずしも当初想定した成果を上げられなかったものも多く発生しました。そのため、PMI®が提唱するモダンプロジェクト・マネジメントの手法であるPMBOK®に取り組み、論理的で体系的なPM手法の導入を行いました。これにより、ある程度プロジェクトの成功率を上げることができました。しかし必ずしも、全てのプロジェクトの遅延や見積りと実績のギャップ発生が解消されたわけではありませんでした。

 

- 確かに多くのSIerでもPMBOK®の採用と、PMP®の育成に力を入れていましたがプロジェクト成功率の改善は期待したほどではなかったようです。その原因はなんだったとお考えですか?

 

 ビジネスオーナーの要求を正しく把握できていなかったために、実装した機能が本来期待したこととギャップがあったことが原因でした。このことから、お客様の経営戦略を理解し、そこから出てくる「ビジネス要求」を正しいコンテキストで理解することが重要だと結論しました。

 

- その結論からビジネスアナリシスにたどり着いたわけですね。

 

 そうです。当時から様々なBOK本について研究していたこともあり、ビジネスアナリシスを推進しているIIBA®という団体とそこが提唱しているBABOK®というBA実践ガイドに注目するようになりました。

 

- 先ほどBAに注目したきっかけには2つの側面があるとおっしゃっていましたが?

 

 今申し上げたのは会社が置かれた状況から発生した側面でしたが、もう一つは私個人の経験からたどりついたものです。

 

- と言いますと?

 

 ご承知のように弊社はお客様、主に親会社から要求されるITシステムを構築することが使命の会社です。ただし例外もあって、以前セゾン自動車火災保険株式会社からシステム構築案件でお声がけ頂き私が担当しました。セゾン自動車火災はグループ会社ではありますが、弊社の位置づけでは外販案件となります。

 当時お客様からは、ITシステムの機能を考える前に専門家としてシステム戦略の立案への協力を期待されました。ITのプロだった私はその期待に応えるため、戦略立案支援を行う中で戦略策定に必要な、データ分析やマーケティング手法などの様々なアプローチを研究することになりました。

 

- つまりそれまでのSIerとしての仕事の範囲から一歩踏み出したということでしょうか?

 

 そうですね。IT戦略を策定するということは、上位の経営戦略や事業戦略からの様々な情報を得て整合性を取る必要があるため、結果としてお客様のビジネスをかなり深く理解することになります。このことでその後の具体的なシステム開発をスムーズに行うことができ、結果としてお客様に大変ご満足いただけました。

 

- それがビジネスアナリシスと結びついたということですね。

 

 はい、その後会社として正式にビジネスアナリシスに取り組んでいくことになりました。特に私たち損保業界では、グローバルゼネラリストが必要とされていたため、早いタイミングでの異動が多く、様々な施策の継続性を保つことが難しいという問題がありました。そのためBABOK®の知識エリアの中でも、せっかく取りまとめたビジネス要求やステークホルダー要求などを維持し、最新化し、継承していくために必要な「要求のライフサイクルマネジメント」が特に重要だと考えています。

 さらに、ビジネスアナリシスの考え方を自社内だけではなく、お客様にも広く理解いただくことで更に高品質なサービスを提供できるようにして行きたいですね。

 

- ビジネスアナリストを育成するためにどのようなことを行っていますか?

 

 現在独自の社内資格制度を立上げ、有資格者を養成しています。社内認定資格者が10名、他にIIBA®の認定資格であるCBAP®保持者が1名となっています。この中には親会社からの出向者2名を含んでいます。またEXIN(エクシン)がBCS(英国コンピュータ協会)と提携して実施する「ビジネスアナリシスファウンデーション」資格の取得はBAに携わるメンバーは必須としていて、先ほどの10名は取得しています。今後2025年までに45名のスペシャリティ認定BAの養成を目指しています。

 加えて親会社からの出向者が親会社に戻ることで、自然な形で親会社内にもBAの理解者が増えることを期待しています。

 

- かなり積極的にBAリテラシーの充実を図ろうとされていることが分かりました。私共としてもとても嬉しい話です。さて、そのBA要員の方々ですが実際のお仕事のやり方はどのようにされてるのでしょうか?BA専門部署を設けられていますか?

 

 いえBA専門の部署があるわけではありません。BA担当者はビジネス部門の中で仕事をしています。各プロジェクトの中で自らBAの課題を見つけて実行計画を立て、それに基づきBAを実施しています。

 

- 具体的にはどのような手順でBA活動をされていますか?

 

 親会社でIT戦略を立案しますが、それにしたがってビジネスオーナーから弊社にリクエストが来ます。つまりIT構築案件として発注がきてそれを受注することになります。当然ビジネスオーナーから機能要求が伝えられるのですが、なぜその要求が必要なのか真の目的が明確でないことがあります。そのときBAが要求分析を実施し、ビジネスのどのコンテキストからの要求なのかを理解した上で、正しい機能要件に展開するようにしています。

 

- やはり開発案件として、機能要求が先行する形になる場合があるのですね。

 

本来は親会社のIT企画部門の中でBAが活動することが望ましいと思いますが、先ほどお話したように、親会社の中にもっとBAの重要性と必要性の認識が定着する必要があると思っています。

 

- そのためには何が必要だと思われますか?

 

個人的な経験ですが、BAを実践する一人ひとりが真摯に取り組み、いい結果を残すこと 

で次からご指名で依頼が来ることがあります。これを繰り返すことで徐々にですが確実

な理解を得られるのではないでしょうか。個の能力を高めていくことが必要になると思

います。

 

- BA活動の課題として捉えていらっしゃることはありますか?

 

ITシステム子会社ということもあり、最上流工程でお客様と共に仕事をすると言うビジネスモデルは、お客様と弊社双方にまだハードルがあるように感じています。

お客様にはビジネス分析等の最上流工程は、コンサルティングファームへ依頼するという観念があり、情報子会社はその結果を具現化するという考え方が主流だと思います。

ただ子会社である我々の強みは、お客様の業務、ビジネスを良く知っているということです。このアドバンテージはコンサルティングファームの優秀なコンサルタントにも引けを取らないと思います。また、日々システム運用を行っているわけですから、現在の問題点や課題についてすでに把握、理解しているということもあります。この優位性を活かして今後最上流工程でもサービスを展開できるようになればと考えています。そのためにBAの方法論に磨きをかけることはもちろんですが。

 

- なるほど、最上流工程であるビジネス要求の引き出しとまとめの方法論は、まさしく

BABOK®で定義されていますね。ところでBAご担当者の評価はどうされていますか?またモチベーションの維持に工夫されていることはありますか?

 

 特に明確な指標を設けているわけではありませんが、どれだけプロジェクトに絡んだか、

その結果はどうであったかを、過去の経験値と比べて評価します。モチベーションについては、お客様の戦略立案部門との最上流工程でのコラボレーションを実施することで、やりがいや達成感などを得ることができれば理想的なのですが、今はそこに向けていろいろな手を打っているというところでしょうか。例えば、グループ会社のITロードマップの策定を行い経営層に提案したり、DX推進部門とコラボレーションを行い変革の目標を設定したりと、徐々に最上流のコンサルティング案件にもかかわっていくように、意識しています。また、親会社からの出向者にBAを覚えてもらうことで、親会社内でのBAの必要性と重要性を徐々に広めていくということも行っています。

 

- BA担当者のキャリアパスはどのようになっていますか?

 

 現在3段階のパスを作っています。初級のスペシャリスト、中級のエキスパート、上級の

マスターです。先ほどから申し上げている通り、「戦略アナリシス」分野で活躍できる環境を作りだすことが課題だと考えています。このような環境を広げていくことでBAを実践する機会を増やしていくことで、よりよいキャリア形成が可能になると思います。

これからは、親会社向けの内販サービスだけでなくグループ会社等への外販サービスの強化や、ITやBAにかかわる基礎研究分野の充実など、高品質なサービス展開を可能にするような方向性を考えています。

 

- 日本の企業の中で、ビジネスアナリシスがなかなか受け入れられないのはなぜだと思われますか?

 

 ビジネスを分析しモデル化、つまり抽象化して全体を把握することがビジネス変革に必要だという考え方そのものが、組織の中に希薄なような気がします。それは我々現場で働く者もそうですが、経営層も同様ではないでしょうか。まず経営者の意識改革つまりモダナイズが必要なのかもしれません。またビジネスを行う人は、そうしても過去の成功体験にとらわれ、ビジネス環境の急速な変化のため、過去の経験が有効ではないという認識が足りないと思います。

 

- 最後の質問ですが、私たちIIBA日本支部に求めることはありませんか?

 

 私たちと同様に、ビジネスアナリシスに取り組んでいる企業のBA担当者とのつながり、つまりコミュニティを作って欲しいですね。例えばMS-Internet Explorer の保守がなくなるがIE対応アプリケーションにどう対応しているのか? それに対してビジネスオーナーはどのように反応したのか?など共通する課題をBA視点で話してみたいです。

 

― なるほど、IIBA日本支部のスポンサー同士の意見交換の場を設けるというのは面白いアイデアですね。一度検討してみることにします。

 今日は大変興味深いお話をいただき、また貴重なお時間をいただき大変ありがとうございました。本日お伺いした内容をまとめ直して、支部会員の皆様に公開していこうと思います。